他人の靴を履く
「もし僕がアフリカに生まれていたら…」
その姿を未だ上手く思い描くことができません。映画『アラバマ物語』には、こんな台詞がありました。
「他人の靴を履いて歩き回ってみなければ、
本当にその人のことはわからない。」
他人の靴をはいている自分を想像する。弁護士の父アティカスが10歳の娘スカウトに、「相手の立場に立って物事を考えることの大切さ」を説いて聞かせる場面です。
踵のつぶれたぼろぼろのズック靴を履いて人ごみを歩けば、靴を新調できないあの彼の惨めな気持ちが理解できるかもしれません。硬い革靴で一日中ビル街を走り回っていれば、あのビジネスマンが感じていた身体的、精神的ストレスを体感できるかもしれません。
でも、ザンビアの村の子ども達は皆、その肝心な靴を履いていないのです。大人も大半が裸足。理由は靴を買う収入が無いこと。裸足は怪我や病気など、常に多くの危険にさらされています。
では、靴の価格はいくらでしょうか。
・アフリカ製のズック靴 40,000クワチャ(≒670円)くらい
・トレッキングシューズのような丈夫な靴 200,000クワチャ(≒3,300円)くらい
ところが、アフリカ製の靴は品質が悪く、直に壊れてしまうそうです。もし、やっと手に入れた靴が、数ヶ月もしないうちに壊れてしまったら、その落胆はどれほどのものでしょうか。
一方、200,000クワチャの丈夫な靴は、現地の最低賃金月額700,000クワチャ(≒11,700円)の三分の一にあたります。日本の最低賃金を98,000円とすると、その三分の一は約32,700円。負担の大きさがわかります。そもそも、村には収入を得る仕事自体が非常に限られています。
バナナ・ペーパー・プロジェクト・チームの一人、フローレンスさんが「(この仕事の給料で)生まれて初めて靴を買った」と言って、黒革の婦人靴を嬉しそうに見せてくれたことがあります。ある日、その彼女が仕事場に中学生の娘エリザベスちゃんと、小学生の甥っ子ネイサンくんを連れてきました。バナナ・ペーパー・プロジェクトのおかげで、二人を学校に行かせることができたことへの感謝の気持ちを伝えるためでした。
人生初の靴を履いたフローレンスさんの喜びは?二人を通学させることができた彼女の仕事への誇りは?諦めていた学校に通えることになったエリザベスちゃんの希望は?
まずは、ひとつひとつじっくりと思いを巡らせてみることにします。 彼女の真新しい革靴に足を入れながら。