タイムマシン

引っ切り無しにコオロギが鳴いています。
時々聞こえてくるカバの声は、巨大な牛蛙のよう。
夜の人の囁き声は低く小さく、土や木の中に吸い込まれてゆきます。

満天の星空には、次から次へと星が流れ、願い事などひとつも無くなってしまいます。
周りに灯りらしい灯りがなく、夜空に白濁の薄い布をかけたような天の川を眺めていると
まるで一人宇宙空間に放り出されてしまったような不安感、心細さに襲われます。

ザンビアの夜空の奥に、落ちてしまいそうになりながら、
僕は平家物語の小督(こごう)を思い出していました。

互いに想いを寄せる高倉天皇と小督。
しかし、 高倉の叔父平清盛が気分を損ねたことを知り、
身の危険を感じた小督は突然身を隠します。
小督への想いを断ち切れない高倉天皇は、彼女を探し出そうとします。
手がかりは琴の音。
月の美しい夜に、 高倉天皇に想いを馳せて小督は琴を奏でるに違いない。
果たして、月明かりと琴の音だけを頼りに、使者は小督を探し出すのでした。

その時、彼が見上げた空は、こんな星空だったのではないだろうか。
そんなことを思ったのです。

日本から遠く離れたアフリカ。
でも、この空は僕を平安の昔にも連れて行ってくれる。
タイムマシンのようなこの星空を失いたくない。
この空はアフリカであってアフリカではない。
かつて日本の都にもあった空なのです。

目を凝らすと、サファリの上辺りの空がうっすらと赤く染まっています。
密猟者が火を炊いているのかもしれないとのこと。

ひんやりと冷たく心地よい西風に乗って、ハイエナの遠吠えが聞こえました。

撮影日2012年8月10日
場所 ザンビア、エンフエ村
撮影編集 青樹洋文
協力 One Planet Café

追記:
ここまで書いて、自分自身その偶然に驚いています。
『平家物語』には、小督を探し当てたのは8月10日の深夜とあります。
僕がこの星空を撮影した日と、ちょうど同じ日だったのです。

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