Wi-Fiモデムと蚊帳
「名刺一枚で世界を救う」
バナナ・ペーパー名刺が紹介されたテレビ番組のテーマです。本当にそんなことが可能なのでしょうか?
バナナ・ペーパー・プロジェクトが行われているエンフエ村に行くには、ザンビアの首都ルサカを経由します。村では手に入らないものが多いため、ルサカで必要物資を購入してから最終目的地に向かいます。
まず必要なのはWi-Fiモデム。都会のルサカでは問題はありませんが、エンフエで滞在するロッジにはインターネットのサービスはありません。airtel Zambia社というキャリアがモバイル・インターネットの サービスを提供していました。3.75Gという3Gと4Gの間くらい(?)にある回線網だそうで、HUAWEI社のE5830というワイヤレスモデムを使用すると、5ユーザーまで使用できるとのこと。
しかし、満天の星が輝き、目の前に野生のゾウやキリンやマングースが突然現れるあの村で、モバイルインターネットが使用できるということが、どうしてもイメージできません。アンテナ基地局を調べてみると、ザンビア全土で280余り。エンフエには基地局はありませんが、そこから100kmほど離れたチパタにはあるので、きっと大丈夫に違いないと腹をくくります。YouTubeに「How to use HUAWEI, E5830」などという動画があったので事前に予習。果たして、村でモバイル・インターネットを無事満喫することができました。
もう一つ購入をしたのはモスキート・ネット(蚊帳) でした。蚊などに吸血されることにより感染するマラリア。高熱、頭痛、吐き気などの症状をもよおし、悪性の場合は死に至り、村でも深刻な問題になっています。
ところが、蚊から身を守るための蚊帳が、村では手には入りません。バナナチームとワン・プラネット・カフェが代金を折半。ルサカで購入して、村に持ち帰る約束でした。売っていたのは総合雑貨店のキャンピングコーナー。しかし、どのサイズの蚊帳がバナナチームの寝室にフィットするのかが分かりません。部屋の広さは?天井の高さは?それまでWi-Fiモデムのことでいっぱいだった僕の頭の中に、突然、草葺の屋根と日干しレンガの壁で造られた村の家が浮かんだのです。インターネット・モバイル接続というザンビアでは最先端であろうデジタルの世界から、超アナログの世界への急転換。その余りのギャップに、僕は軽いめまいを覚えました。
インターネットからモスキートネットへ。村ではこのようなギャップに何度も 遭遇します。先日まで元気だったバナナ・チームのジョセフィンさんが、マラリアに冒され死の淵をさまよう。夫であるビリーさんの不眠の看病によってなんとか回復をし、今日はネットボールの親善試合で縦横無尽に走り回り、最高のディフェンスを披露している。
生と死はいつも隣合わせ。今日生きていること自体が奇跡なのかもしれません。でも、東京で暮らす僕はついついそのことを忘れてしまいます。 生と死は、弓と弦の関係。死を身近に感じれば感じるほど、生きようとする力も強くなるのでしょう。
バナナ・チームのフローレンスさんは、バナナ・ペーパー・プロジェクトの収入によって、娘だけでなく兄弟の息子の学費も支払い学校に通わせていました。アフリカでは、一人の収入で直接的、間接的に10人分を養うと言われます。日本ではあまり考えられないことです。
名刺一枚が世界を救うのか?
僕は救うと思うのです。Wi-Fiモデムと蚊帳というギャップが共存しているように、アフリカではジェットコースターのように急降下したものが、次の瞬間急上昇する。たった一人の収入で10人を養うように、小さな力がテコの原理のごとく、大きなエネルギーに変わる。そう思うのです。